鍼灸治療では、肩こりや腰痛があっても、痛いところだけに鍼をするとは限りません。
例えば、筋肉の不調に対して、腎に関係するツボを使うことがあります。また、胃腸の調子が悪いときに、別の経絡を治療することもあります。
一見、関係がなさそうに思えますが、これには東洋医学の「五行(ごぎょう)」という考え方が関係しています。
私自身、普段の治療では当たり前のように使っているため、患者さんに詳しく説明する機会はあまりありません。
今回は、この五行について少しお話ししたいと思います。
五行とは?
東洋医学では、自然界のものを「木・火・土・金・水」の5つに分けて考えます。
人間も自然の一部ですから、身体の働きもこの5つに当てはめています。

※ここでいう肝や腎などは、現代医学の臓器そのものではなく、東洋医学で考える身体の働きのことです。
これらは別々に働いているのではなく、お互いに影響し合っていると考えます。
その関係を表すのが「相生(そうせい)」と「相剋(そうこく)」です。
① 相生(そうせい)とは? 助け合う関係

相生とは、お互いを助け、育てる関係です。
例えば、木が育つためには水が必要ですね。
東洋医学でも、腎(水)が肝(木)を養うと考えます。
では、これが鍼灸治療とどう関係するのでしょうか。
東洋医学では、肝は筋肉や腱と深い関係があるとされています。
肝の働きが不足している場合、肝だけを補うのではなく、その肝を養っている腎を補うことがあります。
古典には「虚すれば、その母を補う」という治療原則があります。
「虚」とは働きが不足している状態のことで、「母」はその働きを養っているものを指します。
肝(木)にとって、母にあたるのが腎(水)です。
元気のない木に水を与えるように、弱っているところを、その母にあたる働きから補っていくわけです。
② 相剋(そうこく)とは? 抑え合う関係
もう一つが相剋です。
こちらは、一方の働きが強くなりすぎないように、もう一方が抑える関係です。
例えば、水が火を抑えるような関係です。
この相剋も、鍼灸治療では大切な考え方です。
ストレスと胃腸の関係

ストレスがたまると、胃が痛くなったり、食欲がなくなったりすることがありますよね。
東洋医学では、肝(木)は脾(土)の働きを抑える関係にあります。
脾は胃腸の働きと関係しています。
普段はバランスが保たれていますが、ストレスなどによって肝の働きが乱れると、脾を必要以上に抑えてしまうことがあると考えます。
その結果、食欲不振や胃の重さ、お腹の張り、便通の乱れなどにつながると考えられています。
これを「木乗土(もくじょうど)」といいます。
本来の相剋は正常な調整関係ですが、抑える力が強くなりすぎた状態を「相乗(そうじょう)」と呼びます。
このように、胃腸に不調があっても、胃腸だけでなく肝の働きにも目を向けることがあります。
身体全体をみる鍼灸治療
相生は「助け合う関係」、相剋は「抑え合う関係」。
東洋医学では、この2つの関係を通して、身体のさまざまな働きがバランスを保っていると考えます。
もちろん、筋肉の不調がすべて肝の問題というわけではありませんし、胃腸の不調がすべてストレスによるものでもありません。
五行は東洋医学に古くから伝わる考え方であり、現代医学の病気の原因をそのまま説明するものではありません。
当院では、肩こりや腰痛などの症状があっても、痛い場所だけでなく、脈や身体全体の状態を確認しながら治療を行っています。
どの経絡の働きが不足しているのか、あるいは過剰になっているのか。
そうしたことを考えながら、治療に使うツボを選んでいます。
「痛い場所だけでなく、身体全体のつながりを考える」
これが、当院で行っている鍼灸治療の基本的な考え方です。
吉澤鍼灸治療院
兵庫県洲本市

